模倣の経営学 偉大なる会社はマネから生まれる

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  • 更新日:2015/07/18
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文庫版になったビジネス書

本書は、2012年に日経BP社から発行された単行本ですが、2015年6月に文庫本化されました。

文庫本だと小さいし値段も手ごろなので気楽に読めるのがありがたいです。

真面目に、真剣にマネる

マネると言っても、いろいろあります。

同じ業界の競合企業がやっていることを参考にすることから、全く関係のない業界の手法からひらめきがあることもあります。マネる方向性にしても、他社の成功を模倣することもあれば、逆に他社の失敗を反面教師として採用することもあります。

そもそも人間が全くのゼロから何かを発明することなど滅多になく、みな何かを参考にして新しいものを生み出しているのですから、広い意味ではみな誰かをマネしているともいえます。

本書ではそれらを論理的、包括的に議論しています。

マネで始まった宅急便

本書では宅急便で有名なヤマト運輸の例があります。個人輸送ではパイオニアともいえるヤマト運輸がマネたのは何だったのでしょうか。

法人輸送で行き詰まっていた同社が社運をかけておなじみの「宅急便」を始めたときに参考にしたのはUPS、吉野家、そしてジャルパックでした。UPSこそ同業なので参考になることがありそうですが、吉野家やジャルパックはすぐに何をマネたのか思いつきませんね。

本書によると、吉野家からは商品展開を絞り込むこと、そしてジャルパックからは商品のわかりやすいパッケージングを学んだそうです。これを全く異なる運送業界で始めたことからオリジナリティが高く見えるのでしょう。

本書ではこれをP-VARというモデルに当てはめて説明しています。

模倣の深さ

マネるといっても、そこには2種類の「深さ」があります。

短時間でマネができるのは製品レベルです。他社の製品を見て、似たようなものを出すことです。

もう一つは仕組みレベルで模倣することです。

製品レベルでマネるのは優位性が持続しません。このあたり、中国シャオミ(小米)がアップルのマネをしたり最近ではバルミューダの「Air Engine」をパクって提訴されたりしていますが、そういうレベルでは先がないということです。

模倣されにくい仕組み

逆に、他社に模倣されにくい例も紹介されています。それが公文教育研究会(KUMON)です。

KUMONは細かくレベル分けした自習テキストを用意し、それぞれの生徒の進度に合わせてそれを自学自習させるスタイルです。テキストさえ用意すれば一見模倣できそうに見えますが、今までコピーに事業として成功した例は極めて少ないそうです。

これは、KUMONが単にテキストを用意しただけではなく、指導者のテキストへの理解と、指導力を高めるための努力、そしてそのための自主研などのネットワークがすべて有機的につながっているからということです。事務局は高所から指導者を「指導」するのではなく、あくまで指導者のサポートに回り、指導者たちが自律的に学びあい、より高レベルな教育をするための活動を続けています。そういったシステム自体を模倣することは極めて困難であり、マネされにくい構造になっているそうです。

これを読んで、野中郁次郎先生の形式知・暗黙知(そしてSECIフレームワーク)を思い出しました。形式知だけのコピーは容易いかもしれないが、暗黙知を通してSECIモデルを回していると、そのコピーは難しいのかもしれません。なお、SECIモデルについては知識創造企業が原典なのでご参考まで。

模倣にも「作法」

そして、模倣の目的に合わせてやり方も変わってきます。競合他社に追随して追いつき追い越したいのか、仕組みに踏み込んで新たなイノベーションを起こしてブルーオーシャンに乗り出したいのか。戦略によって模倣の仕方も変わってきます。

筆者の言うように「模倣」は「創造」なのであり、正しく使えば極めて有効な経営戦略なのです。

新しいビジネスを模索している人にお勧めです。

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