東ロボくんの真の脅威とは

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  • 更新日:2016/11/26
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人工知能研究の一環として、国立情報学研究所が中心となって東ロボくんプロジェクトというものが進められています。「ロボットは東大に入れるか」がテーマで、2011年に立ち上げられました。

11月14日にその成果報告会が一橋大学の一橋講堂でありました。報告会には大学や企業などから400名が参加、関心の高さをうかがわせました。

肝心の東ロボくんの成績ですが、センター試験の成績は950点満点中525点、偏差値57.1でした。

この結果については、東大受験を諦めたと報じられたのがクローズアップされています。しかし、真の成果は東大に入れるかどうかではありません。

ai-robot.jpgImage: Pixabay

文章が苦手

これは人工知能に関して以前から言われていたことでもありますが、東ロボくんは文章の細かなニュアンスを捉えることが苦手です。また、数学はかなり得意ですが、文章題を読み解くのは上手ではありません。

このことは、東ロボくんの回答の求め方にも関連しています。回答の作り方は大きく2種類あります。

  • 問題文に類似した選択肢を教科書などの知識データベースから探す(英語、国語、世界史などに多い)
  • 問題文から形式表現(コンピュータで処理しやすい表現)に変換してシミュレータやソルバといった計算処理で解答を求める(数学や物理に多い)

東ロボくんが得意とするのは後者の手法です。

東ロボくんの脅威

上記のことからわかるように、東ロボくんは問題の文章の意味を分かって解答していません。

しかし、そんな東ロボくんでもセンター試験で偏差値が57.1、学生平均437.7点に対して525点取っているということは、半数以上の受験生よりも賢いということになります。ということは、人間もやはり問題文の意味が分かっていないのではないか、という疑問が生じます。

これを裏付けるために、プロジェクトではRST (ReadingSkillTest)という、学生に対し文の係り受けや推論などの理解力を測るテストを実施しました。

その結果、学生の約5割が、教科書の内容を読み取れていない、約2割は基礎的な読解もできていない、ということが判明しました。つまり、

AIが理解していないことは多くの学生も理解していなかった

ということになります。

これは極めて深刻な事態です。なぜなら、AIの脅威を増幅する結果だからです。

オズボーンレポート(The Future of Employment)で示されたように、将来は現在存在する多くの仕事が機械に置き換えられてしまう可能性があります。ただ、「創造性を発揮する仕事」「人との関わり合いが重要な仕事」など、現在の人工知能ではかなり困難な仕事も様々にあり、それらが人に「聖域」として残されるだろうというのが多くの人の見方です。

しかし、今回の東ロボくんの結果から、

AIが苦手とする仕事は人も苦手

ということがわかり、「人間に残された聖域」が楽な領域ではないことがわかってきました。

今回の結果に基づいて危機感を感じたプロジェクトでは、読解力向上を目指すために「教育のための科学研究所」準備協議会を設置しています。

創造性は聖域なのか

先ほど挙げたように、「創造性」はロボットやAIによる代替は困難とされています。

仮にそれが真実だとして、これが人の仕事にとってどれだけの安心を与えることができるのかというと、かなりの疑問を生じさせます。

なぜなら、創造性といっても、現在イノベーションと言われているようなことは、たいてい「既存の何かと何かを組み合わせて、新しいものを作り出した」といったことが多いのです。

例えばiPhone、例えばUber、どれもそれ自体世の中に全く存在しなかったことではなく、すでに存在するものを上手に組み合わせた、または新たな提供方法や体験価値を作り出した、ということでイノベーションになっています。

このような「創造性」は「過去の(知っている)事物を組み合わせて新しいことを生み出す」ということであり、一種の内挿 (intrapolation)と言えますので、AIにとっては実は得意分野でもあります。もっとも、ランダムに組み合わせるだけでは意味のないものもたくさんありますから、作り出したものが価値があるかを判断する方法において、まだまだ人間の方が賢いわけです。しかし、現在のペースで技術が進化すれば、このような方法によるイノベーションはコンピュータにも可能になってくる可能性が高いと考えることもできます。

一方、今まで知っていることの外側に新しいものを生み出す「真の創造性の発揮」は、AIにとっては難しいことですが、人間にとっても大変困難です。

このような「今までに全くなかったものを生み出す」イノベーションとしては、例えばニュートンの万有引力の理論やアインシュタインの相対性理論の構築などが例として挙げられるでしょう。これらはコンピュータにとって非常に困難、おそらくは不可能なことだと思いますが、では私を含む凡庸な人間にとって可能かというと、これもまた難しいものです。

人間がみなアインシュタインであればロボットに職を奪われる心配をしなくて済むのかもしれませんが、残念ながらアインシュタインのような天才は世の中には少ないものです。

AIやロボットの能力は結局上がっていきます。それらが我々の「現在の」仕事を奪っていくのは規定路線です。将来的に新しい職が生み出されて人間は安泰なのか、すべからく人は職を追われるのか、はたまた「ロボットと比較しても人間の方が費用が安い」というブラックな臭いのするところに人は追われていくのか、これからの世界を考える時期に来ています。